新型コロナウイルスの影響で見えてきた日本企業と外資系企業の対応の違い2
前回 日系大手企業と、日本で「いわゆる外資系企業」と呼ばれる欧米系グローバル企業のオペレーション上の対応を比較してみました。
http://bermuda.a139.jp/entry/2020/04/04/091413いわゆる外資系企業の多くは、今回の新型コロナウイルスの影響が広がる以前からリモートワークのインフラを整えていたというお話でした。
リモートワークは既に日常だった?
これらの企業は、グローバル社会のなか、ビジネス上は国や市場毎のローカル戦略を取りながら、経営体制はしっかりと横につながり共有と連携を実現する。同じ部署の同僚が違う国に居るということだってあり得るのです。すなわち既にチームメンバー同士がお互いリモート状態で一緒に仕事をしてきていました。
私自身の経験でも、上司が海外にいて仕事の報告をしたり指示を受けることもありました。
国をまたいで遠くリモート状態にある同僚・上司・部下との連絡に今や欠かせないのがウェブ会議システムです。WebexやZoomやSkypeといったツールが一般的で、通常外資系企業の社員のPCにはインストールされ、日常的な連絡手段となっています。最近の話ではありません。5-6年前あたりから、ウェブ電話会議でちょっとした打合せをしたりというのは一般的になっていました。
片や日系企業では意外なほどに縦割り構造になっていて、国や地域を横断してのやりとりはあまり頻繁ではないという印象です。もちろん部署やビジネスにもよりますが、日系大手企業といえばほとんどがグローバルに事業を展開する企業であるにもかかわらずです。
日本に居ながら海外の同僚とやり取りする時は時差を考慮することになります。時には自宅に会社のPCを持ち帰り、夜や早朝にウェブ会議ということもあり得るわけですね。
今はスマホでも対応できますので、ある意味まさに「24時間戦えますか」という時代が再度きてるのかもしれません(懐かしい響き)もちろん、当時とは意味が異なり、自分のプライベートや家族との時間とのバランスを取りながら働くことができるのです。実質的な労働時間を記録し、勤務時間をトラックできる仕組みも整っています。
つまり多くの外資系企業はリモートワーク可能な体制が整っていました。今回の新型コロナウイルスの影響で突然オフィスへの出社禁止と在宅勤務指示が出たとしても、即時対応できていたことでしょう。部署によっては難しい業務もあるでしょうが、基本的なインフラはあるため、調整も比較的容易です。一部の日本企業にみられたような、ちょっとしたパニックになるようなことはみられなかったと聞きます。
「働き方改革」のような議論は欧米では日本よりかなり以前から進んでおり、個人のライフスタイルに合わせた働き方を選べるようにしている企業は多かったのです。
ロックダウンは欧米の都市でより深刻な状況となっていますが、私の知人たちはミラノやマドリードやロンドン等、厳しい外出禁止令が発令されている街においても自宅からリモートワークで対応できているようです。
外資系企業にとってリモートワークの課題とは?
というように欧米系のグローバル企業においては、日系大手企業のように突然リモートワークを強いられて混乱してるということは少なかったようですが、実は別の深刻な課題があるというのです。
それはズバリ…同僚がお互い顔を合わせる機会が無くなったことだそうです。
ウェブ会議でいつでもつながることができても、定期的に会って会話や協議を行う機会が減ることは問題だ…とのことでした。
ええっ、それでは日系企業と同じでは…?オンラインではダメだ、リアルでないからいろいろと不都合だ…ということでは、リモートワークを強いられて慌てる日系企業と同じですよね。
ところがこれは大きく意味が違ったのです。
外資系企業:リモートワークが当たり前なのでリアルの場を重視している。その場が失われることの戸惑い。
日系企業:リモートワークの経験がなくリアルの場でしか仕事ができない。その場が失われることの戸惑い。
一見同じような悩みに思えて周回差がついていたということなのです。
外資系企業では同僚とオンラインで繋がるリモートでのやりとりが日常的です。そうしてビジネスの機会が増え、個人の自由度が増し、生産性を上げてきたと言えます。一方で、同じ場を共有しない相手とビジネスを進めて行くことはテクノロジーが発展していてもまだ難しさが残ります。そこが課題だと言うのです。
それはビジネス以前に社会活動に重要なコミュニケーションの基本だからです。
・会話の際相手の表情や仕草など場合によっては重要なニュアンスがつかめない
・雑談のような会話が発生しにくく、思いがけないアイデアにつながりにくい
・人間関係の構築には10回の濃厚なウェブ会議より一度の面談が上回ることがある
ウェブ会議の難点はコミュニケーションにおいてリアルな場で自然に得られるものが得にくいことです。
そのため海外や外資系企業ではウェブ会議の進め方を工夫してきた経緯があり、ある程度ウェブ会議の作法やマナーのようなものができています。「アジェンダや資料を事前に共有し、会議のゴールを合意する」という会議の基本を徹底し、密度の濃い意味のある時間に協力する姿勢が参加者には求められてきました。海外では会議ファシリテーション能力が求められ、音声が途切れる等のテクニカル面でのトラブルが多少なりとも起こり得る状況において、特に重視されてきました。
その一方で、会議の効率化に偏り過ぎて、上記のとおり良い意味での雑談が生じにくかったり、お互いの関係が深まりにくいということになっていました。
なのでファシリテーターに求められるスキルも最近は変わってきていて、参加者が気軽にジョークを言い合えるわざと雑談を促す場づくりも必要とされます。また、外国人の間のウェブ会議ではカメラオンが常識です。相手の顔をお互いしっかり見ながら会議を進めるのです。
日本企業で最近導入されたウェブ会議では音声だけの参加で、お互い画面上の資料を見ながら進めるというケースも多いそうです。私もカメラをオンにするよう相手にお願いしたら断られたということも結構体験してます(笑)
むしろリアルな場が重視される世界
そのような背景もあり、海外ではむしろ出張してでも相手に会いに行き、リアルに顔を合わせる場が重視されるようになってきていたのです。
これは興味深い動きとみていました。
テクノロジーが進化し、現地に行かなくても現地の人と気軽に連絡が取れ、現地の情報を詳細に得ることができる。出張や旅行の機会は減るはずですよね。
ところが世界のビジネス航空需要は増加の一途を辿ってきました。行かなくてよくなったはずなのに、もっと現地に移動するようになっている。
テクノロジーの進化と共に人はもっと旅するようになってきているのです。
拙著「人生を変える海外旅行術」でも触れていますが、人と会う、自分の目で見て体験する、空気感を感じる・・といった、リアルな機会の重要性が増しているということです。
外資系大手企業のエグゼクティブ達は特にこのことの重要性をよく理解し、頻繁に世界中を飛び回っているのです。
新型コロナウイルスの影響拡大は、昨今特に重視されてきたこの対面コミュニケーションの機会を奪っている。 このこともひとつの大きな課題だと考えている外資系企業も多いのです。
まさに日系企業よりも先回りの悩みですね。反対に言えば日本企業はグローバル企業から1周遅れと言えるでしょうか。
そして日本において外資系企業と日系企業それぞれに勤務する日本人の知人の話をそれぞれ聞いていて、今回のコロナウイルス問題への対応の違いが見えてきた気がしました。
会社単位でもそうですし、そうした組織に所属している個人としてもその違いがみられたのは興味深いです。
(次回はそのあたりについてご紹介いたします)